膿と罪悪感

穴掘って叫びたいこと

私が父を殺した日

私は父が嫌いだった

いなくなればいいのにと思っていた

 

テレビのリモコンの電池がなくなったと、仕事中の母に電話をする父がだ

テーブルの上にカバンを、置きっぱなしにしていると「片付けろ」と出かけている私にメールをしてくる父がだ

 

雨の日に洗濯物を室内に干していると邪魔だと怒る父がだ

雨の日に洗濯物をしないと「洗濯物が溜まってる」と怒る父がだ

 

 

そんな父だが稼ぎは良かった

ひょうきんで子供が好きな父は私の友達からの評判も良かった

お父さん面白いね

 

だけどある日、詳しいことは覚えていないけど、私は限界だった

一人で洗面所にこもって今にも父に殴りかかりそうになるのを必死に抑えつけていた

何を言ったって何を説明したって無駄だとわかっていた

頭の回転が早い父に口喧嘩で勝てるわけがない

 

固く目を瞑り土下座するような格好で声を押し殺して泣いた

手を膝で押さえつけながら耐えた

 

 

その時、私は暗い洗面所で固く目を瞑り

父を刺した

何度も何度もお腹に包丁を刺した

 

 

想像の中の私は笑っていた

こんなに嬉しいことはないとばかりに嬉々として腕を振り上げ振り下ろし、

振り上げ振り下ろしていた

 

その日から私の中で「父」は死んだ

家にいるのはただの人物だ

「父」ではない

私はそこに動く人間を認識さえすれど、何も感じなくなった

うるさい人がいる

私の邪魔をしてくる人がいる

でもこれはなんかその辺に生息している生き物だった

父の前で笑わなくなった

父の声にはなにか膜が張ってあるような音に聞こえるようになった

透明なビニールシートの向こうから誰かが話しかけているような

どこか歪で、どこかくぐもっているソレ

 

無感覚になって痛みがなくなって全てうまくいっているように思えた

 

だけど、気がついたら

透明なビニールシートの向こうにいるのは父ではなかった

私以外の全ての人が

向こう側にいた

 

そう、いつのまにか私は、私だけがビニールシートの中に入っていたのだ

 

何も感じなくなっていた

何も聞こえたくなっていた

透明なビニールシートの向こうがわはちゃんと見えている

だけど、絶対に触れ合えない

色も薄くなり

音もくぐもっている

 

私だけ私の中に閉じ込められていた

私が邪魔をして外に出られなくなっていた

 

私はもう外に出たくなかったんだと思う

何も感じないと思っていたのはただ単にビニールがあっただけで、痛みはしっかり蓄積されていた

私は一人で立ち上がれなくなっていた

それがうつ病だった